人間たちの話

なんかディストピア作品を紹介されたので最近読んだディストピア作品の紹介でもしましょう。 著訳者,ア行,イ,柞刈 湯葉 | ハヤカワ・オンライン|柞刈湯葉>の短編集、「人間たちの話」に収録されている「楽しい超監視社会」です。 1984年、世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアと呼ばれる3つの全体主義国家に分割されていた。各国は徹底した監視体制と永続戦争により一党独裁を確立し、その統治は永遠に続くように思われた。しかし1991年にユーラシアが内部崩壊し、ロシア共和国をはじめとする複数の国家に分裂すると残る2大国も大幅な政治改革を余儀なくされた。完璧な管理社会は瞬く間にグダグダになり、やがて世界は2019年を迎えた… という冒頭から始まる、ディストピア小説の金字塔「1984年」(漫画版しか読んだことないですすみません)のパロディ小説です。イースタシア(全体的に大日本帝国っぽい)国民薄井澄人を主人公に、表題通りの「楽しい超監視社会」が描かれます。国営SNSのような仕組みで上手く本音を隠しながら相互監視に励む国民たちは彼らなりに幸せに生きていますが、我々から見たその世界は歪で不気味です。不気味であると同時に今の社会の延長線上にある社会をぜひ体感してみてください。 短編集ということでテイストの異なる短編がほかにも収録されています。氷河期が来た日本列島を淡々と旅する「冬の時代」、生命と言えなくもない火星の現象と、一人の科学者、そして子供の物語「人間たちの話」、消化器官の構造が全く違う異星人たち相手にシリコンの麺に重油のスープやら原始銀河の元素構成を再現したスープなどを提供していく「宇宙ラーメン重油味」、部屋に突然岩が現れた男の穏やかな生活「記念日」、世界と作用を与えられない本当の意味での透明人間の悲喜こもごもを題材に科学の考え方を問う「No Reaction」です。 作者が元は生物学者(今は任期が切れて専業作家)で、人間たちの話や宇宙ラーメン重油味ではその知識と想像力が組み合わさって独特なリアリティが生まれています。 この作者は僕が好きな作家のひとりで、デビュー作「横浜駅SF」、二本目の「重力アルケミック」に「未来職安」すべておすすめなのですが、これらはまた別の機会に紹介したいと思います。 この短編集の中でのおすすめは、雰囲気で言えば冬の時代、面白さは宇宙ラーメン重油味、感情に訴えかけるのは人間たちの話やNo Reactionです。 人間たちの話-ハヤカワ・オンライン