#近未来

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未来職安

柞刈湯葉の小説を結構な頻度で紹介しているので今回はその最終回として「未来職安」を紹介しようと思います。 最終回というのは単行本として出版されている分をこれで紹介しつくしてしまうという意味なので今後新刊が発売されたりしたらまた紹介すると思います。後カクヨムで短編小説を書いたりもしているのでその紹介もするかもしれません。 平成の先(まあもう令和になってしまいましたが)、国民の99%は働かずベーシックインカムにより生活する<消費者>、1%の働く人たち<生産者>に分かれています。 そんな世界で就職を斡旋する職安の事務員をしている主人公の出会う様々な依頼を淡々と描いていきます。 現在AIに仕事が奪われると、残る仕事は頭を使う「人間にしかできない」高級な仕事ばかりになると言われていますが、この小説で斡旋される仕事は奇妙ながらも納得感のあるものばかりです。 個人情報の扱いが厳しくなったのを逆手に取り、外部に流れてほしくない機密映像にわざと映り込む仕事、外国の日本料理レストランの従業員が日本人じゃないとAIに判定され炎上したレストランの従業員(仕事はすべてロボットがやる)になる仕事などなど。主人公がもともと働いていたのは県庁で担当の自動運転車で交通事故が起きた時責任をとって辞める仕事でした。 権利を保護されたり日本人だったり責任をとったり、人間でないとできないのは確かながら、なんか想像と違う職業を見ていくのは不思議な面白さがあります。 どうにも近未来社会を描くとディストピアになってしまったり作者の思想が前面に出てしまいがちですが、この作品ではこの社会とは確かに違うけれど、我々より格別幸せでもなく不幸でもない日々を淡々と送る姿を見て、違う社会に思いをはせてみることができます。 もともとは双葉社のwebマガジンカラフルに連載されていたもので、第1話から第4話までは無料で公開されています。

旋舞の千年都市

Qのレポートなんかも大体落ち着いてきたころだと思いますので今回は僕が特に気に入っているSF,「旋舞の千年都市」の紹介をしたいと思います。 舞台は2027年、念願のEU加盟を果たしナノテク産業と天然ガスに沸くイスタンブール。そして自爆した本人以外誰も犠牲者がいない奇妙な自爆テロから物語は始まります。自爆テロに遭遇した後から空想上の存在「ジン」(日本で言えば精霊のようなもの)が見えるようになった青年、持病を抱えながらも優れた頭脳でロボットを操る好奇心に満ちた少年、世捨て人になった老経済学者、巨大企業に詐欺を仕掛け一儲けたくらむ男、「蜜人」というミイラ探しに人生をかけるその妻、ナノテク企業の営業として一旗揚げようとする若き女性トレーダー、彼ら6人がそれぞれかすかに交わりながら複雑に絡み合う陰謀に巻き込まれ、積極的に飛び込み、己が目的の達成を目指します。 最初のうちは彼らは全く別々の目的のために動き、お互いに接点があるのは夫婦の二人と近所に住んで交流のある老経済学者と少年くらいで、全く異なる話が続くので分かりにくいかもしれませんが、やがて彼らはそれぞれの方法で自爆テロの真相と計画の全貌へと迫っていきます。 この物語ではイスタンブールという現実に存在する都市の架空の未来を圧倒的な描写で描き出します。ローマ帝国からオスマン帝国、トルコ共和国へと変貌しながらも発展をつづける長い歴史を持つ街ですが、まず始めに上の階に行くごとに新しくなっていき、それぞれの時代を表す建物の描写から始まり、バザールが開かれていた場所で商談に走り回るベンチャー企業やそれぞれの目的の果てに何人かがたどり着く地下貯水池など、物語の端々で歴史と革新が同居し過去と未来が入り混じるさまを幻想的に描き出します。伝説上のミイラ蜜人を探し求める妻と、最先端の天然ガス取引市場で詐欺をたくらむ夫、テロによってジンが見えるようになって宗教に目覚める青年、ナノテク市場でビジネスマンとして名前を売る一方で大昔から続く家宝を探す女性など、主人公たちもそれぞれイスタンブールの過去と未来に密接に絡み合った背景を持ちます。そしてそれらの描写が科学と魔術が混ざり合って新たな宗教となり、そして壮大なテロを生み出す終盤のアイデアへの説得力となっていきます。 都市だけでなく各主人公たちの過去や追い求める伝承、最先端のテクノロジーに至るまで緻密な描写から手が抜かれることはありません。ミイラの全身を蜜に浸すことで作られる万能薬、蜜人を作る過程を克明な物語として描き、一方では人間の細胞自体に計算機能を持たせる新技術を売り込むさまも詳述します。好奇心にあふれた少年が駆使する改造玩具ロボットや途中で出会う歩容認証付き警備ドローン、EMP武器、分子マーカーの付けられたペイントボールなどなど細部のガジェットもよく練られている上に何の違和感もなく歴史ある街になじんでいます。 この話は新旧入り混じる街や科学と魔術が混ざり合った奇妙な概念、一方で現実と地続きになり確かな存在感を感じる雰囲気、それらすべてを納得させる熱量を持った描写、話の形式が群像劇でこの都市と陰謀をあらゆる角度から眺められる、など僕の好みの描写が詰まっている本です。海外旅行が難しくなっているご時世ですし、古今東西の文明が衝突し混ざり合うイスタンブールで繰り広げられる5日間の物語を是非楽しんでみてください。 旋舞の千年都市〈上〉 - イアン・マクドナルド/下楠昌哉 訳|東京創元社 酉島伝法/イアン・マクドナルド『旋舞の千年都市』(下楠昌哉訳)文庫版解説(全文)[2016年5月] : Web東京創元社マガジン

ハロー・ワールド

今回は藤井太洋のSF連作短編集、「ハロー・ワールド」を紹介したいと思います。同名アニメ映画とは関係ないです。 著者の藤井太洋は元システムエンジニア、東日本大震災の原発事故の時、メディアやネットで科学が不安をあおるツールとして使われたことに反発して自費出版で小説を書き始め、kindleで販売したところ口コミで広まり、ランキング1位を獲得し本格的にデビューした、という経歴の持ち主です。このような経歴でデビューしたため、描かれる物語の考証は徹底的に行っています。 今作、「ハロー・ワールド」は自身のシステムエンジニアとしての経験を生かした物語になっています。主人公は何でも屋のような業務をこなすしがないエンジニア、文椎。彼は偶然知り合った仲間たちとともに広告ブロッカーを開発し、販売してみます。当然大して性能もよくないので売れ行きは芳しくないのですが、なぜかインドネシアで突然爆発的なヒットを飛ばします。その謎を追ううちに、思いもよらない真実にたどり着きます。これが第一の短編、ハロー・ワールドのあらすじです。おそらく著者本人の経験が多分に含まれているであろう主人公の労働環境はリアルでその業界に行こうと思っている人には参考になるかもしれません。そして彼や仲間たちが真実にたどり着いたのち、どう対処するかに対してそれぞれの正義がぶつかり合うところもまた見どころです。 その後会社の売るドローンを営業しにアメリカに行った先で出会うドローンの奇妙な行動とアメリカの実情をほんの少し描いた「行き先は特異点」、東南アジアで大規模デモに巻き込まれ、いくつかの勢力とのはざまで揺れる「五色革命」などなど、テクノロジーと今の世界の交わりを切り取った計5つの短編が収録されています。 彼の作風の良さはテクノロジーと人類への信頼で成り立っているところでしょうか。多分最近見るSF系の映画やらドラマやらはたいていディストピアとして描かれ、テクノロジーの発展に警鐘を鳴らすものが多いと思います。もちろん新しいテクノロジーには危険がつきものですし、それを解決していくことは必要ですが、過度な恐れもまた危険です。 この作品にとどまらず、藤井太洋のSF群は経験や取材に裏打ちされた緻密な考証と未来への無責任ではない希望と信頼にあふれた作品ばかりです。少し未来を切り取った物語群をぜひ読んでみてください。 <https://www.amazon.co.jp/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89-%E8%97%A4%E4%BA%95-%E5%A4%AA%E6%B4%8B/dp/4065133084>www.amazon.co.jp

ボーナス・トラック・クロモソーム

柞刈湯葉の紹介は前回で最終回と言いましたがあれは嘘です。 wiredという雑誌に寄稿されたSF短編が無料公開されているので紹介しておきます。 「ボーナス・トラック・クロモソーム」は遺伝子編集による遺伝病の治療が認められ、治療を受けた子供たちが30代ほどになった未来、人間に新しい染色体を導入する、という計画に対して遺伝子工学の研究者が自身の思いを語っていく短編です。 とぼけているような、真面目に話しているような語り口で淡々と遺伝子編集と自己決定権、新しい遺伝子を持つ人間とそうでない人間の格差、といったものを論じていきます。僕の考え方とは若干違う部分もありますが、巧みな文章構成、否定にも肯定にもよりすぎない結論など、読んでいて見事なまとまり方です。「ボーナス・トラック」というネーミングも、本編を読めば素晴らしいネーミングセンスだと思うでしょう。無料で5分くらいで読めると思うので是非どうぞ。 人気SF作家書き下ろし短編を特別公開! 柞刈湯葉「ボーナス・トラック・クロモソーム」

ドローンスクランブル、推定脅威、リヴィジョンA

さっきちょっと話題になったので航空業界を描いたミステリ、「ドローンスクランブル」、「推定脅威」、「リヴィジョンA」を紹介しようと思います。 「ドローンスクランブル」では在原という技術者がいち早く立ち上げたドローンのベンチャー企業、「リモートテック」を中心に、自衛隊の装備品としてドローンを採用する計画をめぐり航空機開発会社や防衛省を巻き込んだ大騒動が始まります。 「推定脅威」では自衛隊の戦闘機TF-1が二度にわたり墜落を起こした事件をめぐり、新入社員沢本由佳が独自の調査を始めます。 「リヴィジョンA」はまだ読んでいないのですが「推定脅威」の続編で、前作の主人公沢本由佳が練習戦闘機TF-1の改修計画を目指します。 著者の未須本有生は東大工学部航空学科を卒業し大手メーカーに勤務し航空機の設計に携わった人物です(戦闘機開発に携わった、と言っているので多分三菱ですかね、出てくる架空の会社は四星工業ですし)。 これらの小説は彼がメーカーで働いていた時の経験をもとに書かれたものなので、日本の航空機開発のリアルな描写が楽しめます。 航空業界や飛行機の開発に興味があるという人はぜひ読んでみてください。 <https://www.amazon.co.jp/dp/4163905332/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_UB4wFbXRMPQSK>www.amazon.co.jp <https://www.amazon.co.jp/dp/4167906317/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_HN4wFbJ5VNQEQ>www.amazon.co.jp <https://www.amazon.co.jp/dp/4167910888/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_VN4wFb61MQC96>www.amazon.co.jp

2020年米朝核戦争

大統領選挙も接戦なので、今回は「2020年米朝核戦争」を紹介したいと思います。 文字通り2020年、間違って北朝鮮領内に入った韓国の旅客機が撃墜された事件が引き金となって勃発したアメリカと北朝鮮の核戦争の行く末を描いた小説で、スリラー小説などでよく見かける設定ですが、この小説の最大のポイントは作者が元米国国防省高官で核拡散と地政学の権威である、ということでしょう。 さらに作中ではトランプ大統領から金正恩など各国政府高官の名前が実名で登場します。 政治にはあまり詳しくないのでこれらがのシミュレーションがどれほど正確なのかはわかりませんが、戦後まとめられたレポート、という体で進んでいくこの小説では実際に政府高官として働いた時の経験であろう細かい意思決定のためのプロセスが描かれ、少なくとも小説として読む分には十分すぎるリアリティがあります。 新型コロナやらなんやらで現実のほうが想定よりもだいぶ奇々怪々な事態になっていますが、アメリカ政府の内情をのぞいてみるつもりで読んでみると面白いと思います。 文春文庫『2020年・米朝核戦争』ジェフリー・ルイス 土方奈美 | 文庫 <https://www.amazon.co.jp/dp/B08881QKBT/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&amp;btkr=1>

鋼鉄の犬

ソフトバンクがボストンダイナミクスを売りに出すとかいう話がされていますが、今回はボストンダイナミクスの犬型ロボットが活躍する戦争小説、鋼鉄の犬を紹介しようと思います。 舞台は内線の真っ只中の砂漠の国。主人公アルは元アメリカ軍で軍用犬のハンドラーをしていましが仕掛け爆弾により負傷、退役します。その後民間軍事会社に雇われた彼に与えられたのは犬型ロボット、BDY-9を戦場でつかえるように「調教」する仕事でした。 最初は戸惑うアルでしたが、次第にロボット犬に愛着が生まれてきます。しかし内線は本格化し、アルたちの基地も巻き込まれていくことになります。 ロボットの利用に本物の犬の調教師を使うという発想はなかなか面白く、作中での描写もしっかりしているので違和感もありません。 米軍では不発弾処理用ロボットに兵士が愛着をもち、処理中に爆発に巻き込まれ破損して新品に交換しようとしたところ修理するよう要求される、といった事態もあったそうで、今後ロボットの配備が進めば兵士たちとどのような関係を築いていくのか考えさせられます。 小説のジャンルは戦争小説になりますが、同時にライトノベルでもあり、描写もそこまで重くならずに楽しむことができます。重い描写がないからといってリアリティがないとかご都合主義だといったこともないので安心です。 僕はボストンダイナミクスのビックドックが好きなのであれが主役格として出てくるというだけで買いなのですが、一風変わった戦争小説としても、犬好きの人にもおすすめなので是非読んでみてください。 日本人作家で出たのも去年なので皆さんが売り上げに貢献してくれると続編が出るかもしれないのでよろしくお願いします。 鋼鉄の犬 (マイクロマガジン社文庫) | 富永浩史, 赤岸K |本 | 通販 | Amazon