巨星
「巨星」の感想
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「巨星」の感想
タイトル通り、これまで読んできた中で世代宇宙船を扱ったSF小説をざっくりとまとめていきます。
今回は同じく事故に見舞われた宇宙ホテルを舞台としたSF小説、「天涯の砦」を紹介したいと思います。 物語の舞台は宇宙ステーション「望天」。最新の宇宙ホテルとして盛況な宇宙ステーションですが、破滅的な事故が発生、ばらばらに分解し宇宙を漂流することになります。分解したほとんどの区画が空気が抜ける中、奇跡的に空気が残った区画がありました。そこにいたのは技術者の男性、成金の一人娘、天才少年、素性の分からない医者など一癖も二癖もある人物たちでした。 奇跡的に生き残ったとはいえ、空気が残っているのはそれぞれがいた部屋の中のみ。廊下といった広い共有区画は完全に真空になっており、それぞれは換気口を通して会話することしかできません。そんな中で彼らはどうにか協力し、次第に減速を始める宇宙ステーションの残骸の中で生き残りを図ることになります。 さて、パニックものの作品は映像作品をはじめとして多くありますが、(正直あまり詳しくないですすみません)宇宙を舞台としたものはあまり多くありません(まあ予算の問題とかいろいろ理由がある気はしますが)そんな中、この作品は宇宙ステーションの事故から始まるパニックものをしっかりしたリアリティで描いてくれます。 読んだのはだいぶ前なので今読み返せば結構粗が見つかるかもしれないのですが、壁一枚を隔てた先に真空が広がる極限環境で追い詰められていく人々を描いた作品として、ぜひ読んでもらいたい1作です。
初回は野尻抱介の「太陽の簒奪者」です。 006年、突如観測されるようになった水星吹き上げられる鉱物資源はやがて太陽を取り巻くリングを作り始め、その影響で地球への日光は遮られ、人類は滅亡の瀬戸際に立たされます。危機を打開するためにたった1隻建造された宇宙船に乗りリングに向かった主人公、白石亜紀の物語が展開されます。 ファーストコンタクトや地球侵略を扱ったSFですが、異星人たちが人間に興味を示すことはなく、そもそも地球を侵略しているつもりさえありません。彼らの目的とはなんなのか、という問いはやがて知性とは何なのか、といった問いへ発展していきます。 また作中の宇宙船の機動などは可能な限り現実に即して書かれているのも見どころです(あとがきで一部どうしようもなかったので現実では無理な動きを書いたと言っていますが僕はわからなかったです)。
今回は谷甲州の連作短編集、「星を創る者たち」を紹介したいと思います。 谷甲州は航空宇宙軍史というシリーズで有名なのですが、こちらはまた別の機会に紹介したいと思います。 この物語は人類が太陽系の各惑星に進出した時代、月面地下トンネル、火星の与圧ドーム、水星のマスドライバー、木星軌道をめぐる工場、金星上空に浮かぶ凧のような構造物などあらゆる極限の建設現場で起こる前例のない事故とそれに立ち向かう技術者たちを描いていきます。 最終話の好みは分かれるところですが(結構方向性が変わるので僕はあまり好きじゃない)、現場の技術者たちの必死の戦いをSFとして描き切った稀有な作品だと言えるでしょう。 星を創る者たち :谷 甲州|河出書房新社
今回は突然月が7つに分裂するところから始まるパニックSF、「7人のイヴ」を紹介したいと思います。 観測の結果、分裂した月は互いに衝突を繰り返し細かい欠片となっていき、数千年にわたって地上に無数の隕石となって降り注ぐ<ハード・レイン>が2年後に始まり、地上は人類が生存できない環境になることが導かれます。 各国政府はこの事態に対し国際宇宙ステーションを拡張し人類を宇宙に移住する計画がスタートします。 第1部ではこの計画を進めるための人々の奮闘と対立が描かれ、第2部では宇宙ステーションを核とした小型宇宙船の群れ、クラウド・アークを舞台に物語は展開します。 人類最後の1500人となったクラウド・アークの人々ですが、生き残りのための方策から対立し、二つの派閥に分かれていきます。そんな中独自に動いていた宇宙ベンチャーが氷でできた巨大な彗星の回収に成功し、事態はさらに混迷を深めます。 最終章となる第3部では第2部の後数千年が経過し、地上を取り巻くリング状の宇宙ステーション群を運用するまでに復興を遂げた人類が描かれます。 新☆ハヤカワSFシリーズという縦長の変わった形の本で全三巻として売られていますが、上下巻に分けて現在文庫版が発売されているのでそちらを読んでもいいでしょう。(まあ文庫版片方で600ページくらいありますけど) 七人のイヴ Ⅰ-ハヤカワ・オンライン
今回は「重力への挑戦」を紹介したいと思います。 物語の舞台は地球の700倍の重力を持つ惑星メスクリン。ただし、この惑星は惑星自身が変形するほど高速で自転しており、極地では700G ですが赤道付近では3G程度にまで体感重力は減少します。 そんな惑星の極地に人類が送り込んだ探査機が座礁しますが、700Gもの重力に支配された極地に向かうことはできません。そこでこの惑星に住む尺取虫のような形の知的生物、メスクリン人との間に交渉が成立します。 この物語ではメスクリン人たちが赤道から極地へロケット回収に挑んでいきます。 緯度によって重力が変わる世界を舞台に奇妙な光景を巡りながら次第に強くなっていく重力と戦う冒険物語をぜひ読んでみてください。 重力への挑戦 - ハル・クレメント/井上勇 訳|東京創元社
今回は林譲治のミリタリーSFシリーズ、「星系出雲の兵站」を紹介したいと思います。 舞台は地球からの播種船によって植民されたと伝わる出雲星系と、その後に植民された壱岐、八島、周防、瑞穂の計5つの星系からなる五星系文明です。地球人類が異星人の脅威に曝され植民を行ったと伝わっており、異星人の侵略への強迫観念をもっていますが、植民から数千年がたった今、本当に異星人がいるのか懐疑的になっています。 そんな中、壱岐星系で異星人の設置した人工衛星が発見されたところから物語は始まります。 そして人類は異星人ガイナスと遭遇し、ついに異星人の侵略が現実のものとなります。なし崩し的に戦端は開かれ、壱岐星系外縁を舞台としてガイナスとの戦争が始まるわけですが、人類も一枚岩ではありません。戦場となる壱岐星系は辺境ながらも開発独裁体制を敷くことで着々と力を高めていますが、五星系文明の起源であり最大の戦力を持つ出雲星系の介入は着々と軋轢を生みだしていきます。 敵であるガイナスについても、意思の疎通はできず、正体が不明なまま戦争に突入することになり、翻弄されていきます。 唯一で出てくる超光速航法以外は現在の物理法則に則て描かれており、また巨大な組織内部のや組織同士の争いも描かれますが、それぞれの信念や正義がしっかりと描かれるので醜い覇権争いにはならないのも魅力です。 現在第一部が全4巻、第2部となる星系出雲の兵站―遠征―が第3巻まで発売されています。 /26に最新刊星系出雲の兵站―遠征―4巻が発売されます。僕はAmazonで予約したので楽しみに待っているところです。皆さんも新刊発売のこの期に読み始めてみてはいかがでしょうか。 星系出雲の兵站 1-ハヤカワ・オンライン
ノンフィクションのコーナーです。 今回紹介するのは「エイリアン 科学者たちが語る地球外生命体」です。 この本は地球外生命体、いわゆるエイリアンについて化学、物理学、生物学、天文学、心理学など様々な分野の専門家たちが語るアンソロジーです。 まず第1部では地球に宇宙人だ現れる可能性について論じます。なぜ宇宙人が地球に来るかを考えてみる宇宙生物学者、UFOの目撃談と陰謀論の歴史を振り返り検証していく科学番組司会者、発達しながらも人間とはかなり異なる神経構造を持つタコの考察、などが含まれます。 第2部以降からは他の星の生命について考察していきます。 第2部では惑星に生命が住める条件やSF小説のエイリアンなどについて考察します。 第3部では地球の生命を参考に、生命はどのくらい発生しやすいのか、他の惑星ではどのくらいの確率で生命が発生するのかに迫っていきます。生命が誕生し、知的生命に発達するまでにどのくらいの化学反応が必要か、その反応が発生する確率がどれくらいなのかなどについて主に化学者や生物学者たちが見解を述べます。 最後となる第4部では実際に地球外生命体を探す方法やプロジェクトについて言及します。系外惑星の大気による吸収スペクトルを観測するなど、サークルの人であれば聞いたことのある手法かも知れませんが、他にも様々な科学者が色々な意見を述べています。 全体としてページ数は多いですが、アンソロジー形式なので一つ一つは比較的短く、かつ読みやすくまとまっています。 エイリアン──科学者たちが語る地球外生命 | ジム・アル=カリーリ, ジム・アル=カリーリ, 斉藤隆央 |本 | 通販 | Amazon
多分皆さんは三体問題を聞いたことがあると思います。安定解の存在しない問題として有名ですが、この小説、三体に登場するのは3連星系の恒星系に生まれた異星人三体人による地球侵略計画を描いた三部作の第一部になります。 文革時代の中国、科学者であった父親を殺された娘から物語は始まります。絶望した彼女は中国の山奥に建造されたパラボラアンテナを備える軍事基地でのプロジェクトにスカウトされます。 そこで進められる計画に携わる彼女は得た知識からある計画を実行します。 一方近未来のナノテクノロジー素材の研究者汪森は招待された会議で世界的な科学者が次々自殺しているという事実を聞かされ、その背後に見える「科学フロンティア」なる組織への潜入を要請されます。しかし彼が趣味の写真を撮ると必ず謎のカウントダウンがどこかに写りこみ、やがて彼の視界にもカウントダウンが映るようになるゴーストカウントダウンが始まります。 原因のつかめない現象によって追い込まれていく汪森ですが、3つの太陽を持つ惑星を舞台にしたVRゲーム、「三体」の情報を手に入れます。そのゲームをプレイしていくうちにやがては三体人たちの思惑や彼らの計画を知ることになります。 中国発のSFとして中国やアメリカで大ヒットしてから満を持して日本に上陸した本作、SFとしての完成度はもちろん高く、なおかつエンターテイメイント性も高いため非常に読みやすくできており、あまりSFを読まない人でもその醍醐味をしっかりと味わえるおすすめの作品です。 三部作の第二部「黒暗森林」は明日(のつもりで書いていましたが今日ですね)発売です。多分本屋に行けばまとめて売られていると思うので是非読んでみてください。 三体-ハヤカワ・オンライン 三体Ⅱ 黒暗森林 上-ハヤカワ・オンライン 追記 この紹介を書いたのは2020年6月ですが、現在黒暗森林、死神永生が発売され完結しています。
いつも真面目な小説ばかり紹介しているので今回はギャグ小説、「銀河ヒッチハイクガイド」を紹介しましょう。 googleで「宇宙・人生・すべての答え」と聞くと多分「42」と答えてくれると思いますが、その元ネタになったSF小説です。 ギャグ小説と書きましたが、この小説の作者はイギリス人なので、隅から隅までイギリスらしい皮肉とブラックジョークであふれています。 物語の始まりは主人公アーサー(実はチンギス・ハンの子孫らしいが一番最初以外その設定は出てこない)が市役所の廊下の薄暗いところに貼られていた異議申立期間が過ぎたため自宅前に取り壊しにやって来たブルドーザーの前で寝っ転がる必死の抵抗をしている場面から始まります。その時友人に呼び出され会いに行くのですが、その時いくつもの宇宙船が世界中に出現し地球自体が超空間ハイウェイ建造のために取り壊されてしまいます。 そしてアーサーは友人(取り壊されることを知っていた宇宙人)とともにどうにか救助された宇宙船に乗り込み、銀河の旅出発するのでした。 その後彼らはヒッチハイク嫌いのヴォゴン人に見つかり放り出され、黄金の心号という宇宙船に救助されます。その乗員であるザフォド、ザフォドにナンパされた地球人トリリアン、人間そっくりの心を持った宇宙初のロボットマーヴィンとともに伝説の星マグラシアを目指すことになります。 そしてたどり着いたマグラシアでは先述した宇宙・人生・全ての答えではある宇宙種族が究極のコンピュータを製作し、それに宇宙・人生・全ての答えを計算させていました。仕事が奪われると反対した哲学者たちも計算に何百年とかかると知り、その間この機械についての哲学的な講演を行えば今まで以上にもうけが出ると分かったため賛成に回りました。そしてついに計算は終わり、コンピュータが重々しく答えを告げる日がやってきます。 その他にも人を馬鹿にしたようなジョークが止まることなく繰り出され続けます。そんなわけで人を選ぶ小説ではあるかもしれませんが、少なくとも僕のセンスには結構あっていたので楽しく読めた記憶があります(読んだの大分昔なのでこれまでの紹介にも齟齬があるかもしれません) イギリス流ユーモアにSFを掛け合わせた唯一無二の作品である本作、とりあえず一度は読んでみてはいかがでしょうか。 銀河ヒッチハイク・ガイド :ダグラス・アダムス,安原 和見|河出書房新社
今回は久しぶりの現実より宇宙SF,「火星無期懲役」を紹介しようと思います。 主人公フランクリン・キッドリッチは麻薬漬けの息子を救うために麻薬の売人を殺して収監された殺人犯で懲役120年を宣告されました(アメリカだと罪は加算方式で刑期が伸びていくので明らかに人生より長い懲役が普通にあります)。民営刑務所に収監された彼でしたが、NASAから火星探査基地建設を請け負ったゼノシステムオペレーションという会社からある取引を持ち掛けられます。それは火星基地を一種の民営刑務所とみなし、帰ってくる必要のない作業員として火星基地建設に従事する、というものでした。刑務所での生活に嫌気のさした彼は契約に同意し、火星へ向かうため、同じような取引をした様々な受刑者たちと訓練を受けることになります。 火星にたどり着いた彼らは早速想定外の事態に遭遇します。本来一カ所にまとまっているはずの物資コンテナが25km近く遠くに分散してしまっていたのです。 それをどうにか回収し基地建設を進めていく彼らですが、一人一人と受刑者たちが死んでいくにあたり不穏な雰囲気を帯びていきます。一つ一つは事故に見えなくもない状況ですが、どれも怪しい点があり、フランクは疑念を募らせていきます。 著者はもともと別名義で作家業をしていたのですが、「火星の人」、「オデッセイ」の流行を受けて出版社から似たの書いてと言われて書いたそうです。しかし十分にオリジナリティーのあるSFサスペンスに仕上がっていると思います。 ブラック企業の提供で送る火星の人、火星の人を読んで似ているけど雰囲気の違うものを読んでみたいと思ったらおすすめです。 <https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014189/>www.hayakawa-online.co.jp
今回は無重力世界を舞台にしたSF、ラリー・ニーヴンの「インテグラル・ツリー」を紹介しようと思います。 物語の舞台は中性子星レボイの周辺をトーラス上に回転する呼吸可能なガスの塊です。このトーラスの中心付近はガスの濃度が濃く、生命が生存可能ですが、軌道上を周回しているため常に自由落下状態であり、上下はありません。 大抵の動植物は空中に浮かんだ水滴の中で暮らしています。 そんな世界に存在する人類はかつてこの世界に植民したようですが、その記憶はとうに失われこの世界を故郷として暮らしています。 彼らが暮らしているのは100km近く伸びる巨大な植物、「インテグラル・ツリー」です。潮汐ロックによってこの植物は常に軌道と垂直に伸びており、軌道速度と実際の速度が違う樹の端では速度差からくる強風によって植物がたわみ、名前の由来となった積分記号(インテグラル)の形になります。 そんなインテグラル・ツリーの一つに住むクィン一族ですが、気候の変動により飢饉の危機が訪れます。新たな食糧を探すために旅立った主人公たちはやがて故郷の樹を離れこの世界の驚異に出会うことになります。 奇妙ながらも確かに科学に基づいた世界を旅できるというのはSFならではの体験だと思っているので是非読んでほしい一冊です。 <https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%84%E3%83%AA%E3%83%BC-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABSF-%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A4-%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3/dp/4150106932>www.amazon.co.jp
この前紹介した「三体」の続編、「黒暗森林」をやっと読んだので今回はこれを紹介しようと思います。 前作「三体」で三体世界からの侵略に曝されることが分かった地球。三体世界からの侵略艦隊は4光年を400年かけて進んできます。しかし先んじて三体人が送り込んできた陽子に回路を組み込んだコンピュータ「智子」によって人類の行動はすべて筒抜けであり、また量子領域での実験結果を全て封じられ基礎科学の停滞を余儀なくされます。 黒暗森林上巻ではこの智子の監視に対抗するために始まった面壁者計画が描かれます。唯一智子が監視できないのは人間の思考ですが、複数人が集まって協議してしまうと情報が漏れてしまいます。そこで面壁者計画では全世界で4人に強大な権限を与え、4人の頭の中だけに作戦を封印することで智子を欺こうとします。世界的に有名な戦略家や科学者が選ばれる中、唯一無名であった羅輯は、なぜ自分が選ばれたのかを考えるうちにかつて三体危機を引き起こした人物である葉文潔に宇宙社会学の公理というものを聞かされたことを思い出します。 下巻では200年が経過した未来において、人口冬眠から目を覚ました羅輯達の物語が描かれます。目を覚ました彼らが見たのは発展を遂げ光速の15%近い速力を出せる宇宙戦艦を配備した人類たちでした。彼らは三体世界から先に送り込まれた探査機を回収するミッションを開始する直前でした。相変わらず基礎科学は封じられているものの宇宙艦隊を配備した人類は回収ミッションは極めて簡単なものだと考えていました… これまでのSF紹介ではやたら凝ったものを紹介してきた(僕の趣味なので後悔も反省もしてませんしこれからもそうしますが)のですが、これはアーサーCクラークなどを思い出す、きわめて王道なSFで、アイデアもボリューム十分なので誰にでもお勧めできる作品です。 三体Ⅱ 黒暗森林 上-ハヤカワ・オンライン
今回は前回名前だけ出てきたグレッグ・イーガンのSF,「白熱光」を紹介したいと思います。 イーガンは数学の博士号を持っている作家で数学や物理学の知識を駆使した独自設定の世界を展開することで有名です。この白熱光も例にもれず高重力の星を回る星での物理現象の実験などわかりにくいシーンがいろいろ出てきますが、純粋に物語としても面白いです。 前回も紹介したように、白熱光の舞台は数多の銀河種族たちが築いた巨大ネットワーク、融合世界(アマルガム)が舞台。そこに住む主人公たちはある日いつもは銀河中に散らばっているけれど数千年に一度一か所に集まるという種族の人物に話しかけられます。その人から融合世界からの一切の干渉を拒んでいた孤高世界から孤高世界にはまだカタログに載っていないDNA基質の生物が存在するというメッセージが送信されたと聞き、主人公ラケシュたちは孤高世界を目指します。 一方孤高世界に住む種族のロスという女性はある日ザックという物理法則を研究する奇妙な老人に出会います。 奇数章ではラケシュたちの孤高世界の謎を解き明かす冒険が、偶数章ではロスたちの物理法則を探求する物語が描かれます。 ロスたちの発見は最初は古典物理学から始まるのですが最後には相対性理論まで行くのでかなり難解なものになります。それでも小惑星内部に住んでいるので天体観測ができない中、様々な実験を通して自分たちが巨大な重力を持つ星の周りを公転していることを発見していく様子を見るのは興味深いです。 ラケシュたちもまた孤高世界で巨大望遠鏡を建造し一つの小惑星を発見します。そして孤高世界の住人との接触していきます。 先に述べたとおり、イーガンは科学的な正確さに徹底的にこだわる作家なので実験の詳細などについてもとても細かく描写しますが、全体的にはミステリー調で展開するラケシュたちのパート、科学するとはどういうことかを突き詰めていき、発見する楽しさや興奮を余すとこなく描いていくロスたちのパート、どちらも十分に楽しめます。 何を言っているのかわからなくなっても解説のサイトがあるので安心です。 -01-01 いろいろ言いましたが、イーガンの話は基本的に知性を持った生物の目指す幸福とは何かや新しいものを発見する喜びなどを緻密に描いてくれる作家なので一度読んでみてほしいと思います。 白熱光-ハヤカワ・オンライン
今回はイーガンの長編の中で僕が一番好きな、「ディアスポラ」を紹介したいと思います。 舞台は25世紀、人類はいまだ肉体を持つ肉体人、電脳世界ポリスに移住した市民、ロボットに宿るグレイズナーの3種に分かれていました。あまたあるポリスの一つ、コニシで人格生成プログラムに生み出された孤児ヤチマや彼?の仲間たちのたどる数奇な運命を描いた作品です。 白熱光で説明したようにイーガンは数学の博士号を持っており、独自の緻密に練られた物理学の設定を駆使する作家で、この作品でも遺憾なくその実力を発揮していますが、肉体を持った人間も出てきますし(途中で絶滅しますけど)、比較的なじみ安い部類に入ります。少なくとも僕は中学生のころに夢中になって読めたので皆さんなら大丈夫です。 第1部、第2部で地球の地下深くや太陽系中に置かれた計算施設でプログラムとして生きるヤチマですが、ある時友人に誘われ廃棄されたグレイズナーのロボット(反物質駆動であと3000年くらいは動く)に乗って失われた肉体人と交流を目指します。肉体人たちは遺伝子工学を極め、家から発電装置まで生物で構成しており、肉体人そのものも数えきれない系統に分裂していました。彼らとの交流の後、あと数万年は起こらないだろうと言われたガンマ線バーストが突如として観測され、地球に降り注ぐことがグレイズナーたちの観測から明らかになります。 第3部では自分たちの物理学が間違っていることを突き付けられ、内向的だったポリスのうち、物質宇宙にこだわるカーター-ツィマーマンポリス一つが巨大な加速器長炉(太陽の直径の20倍近い長さに延々と1g以下の加速ユニットを並べ続ける頭のおかしい加速器)を建設、新物理学の目玉、ワームホールの製作に挑みます。 そしてワームホール建設が不可能と分かった第4部、ついに題名でもある宇宙探査計画、宇宙で知的生命がいると思われる1000の恒星に向けポリスそのものののコピー1000を送り込むというディアスポラ計画が始まります。これによって彼らはついに異星生物との接触に遭遇しますが… この第4部はワンの絨毯という独立した中編として発表され高い評価を受けたもので、この部分を構成するアイデアだけでも本書を読む価値があります。 そして第5部、ついに真実にたどり着いたヤチマたちの決断と新たな旅が始まります。 さて、小難しい理屈が山ほど出てくる作品ではありますが、基本は異星知性とのコンタクトを目指す冒険物語です。 他にも電子化された生命のアイデンティティ、ソフトウェアである自身の価値観を自身で定義できるときどんな価値観を選ぶのか(これはしあわせの理由というイーガンを代表する名作短編があるのでそのうち紹介します)などの問題も問いかけていくので、科学的なディテールがあいまいでもとても楽しめます。 普通では想像すら難しい壮大な旅路を旅できる一冊で、ラストシーンがとても好きなのでので是非読んでもらいたいです。 ディアスポラ-ハヤカワ・オンライン この本にも有志の解説サイトがあるので分からなくなったら是非。 ディアスポラ数理研:はじめに - ita’s diary
今回は最近紹介が減ってきた宇宙物のSFを紹介したいと思います。 「バビロニア・ウェーブ」は太陽系のそばに発見された強力なレーザー光束、バビロニア・ウェーブをめぐるハードSFです。 深宇宙探査機の連絡から太陽系から3光日の位置にバビロニア・ウェーブが発見されてから、人類はその光束に鏡を挿入し取り出すことで無限に近いエネルギーを入手することが可能になりました。また太陽系全域に鏡反射させたレーザー光線網を張り巡らすことによってレーザー帆船で高速な行き来も可能になっています。 ある日宇宙船の操縦士マキタはバビロニア・ウェーブの近傍にある送電基地に緊急の貨物を運ぶため向かっていたところ、目的地からの応答が途絶し推進用レーザーが止まってしまいます。 不審に思いながらも慣性航行を続ける彼の前に高速調査艇に乗って表れたのはバビロニア・ウェーブの発見者その人でした。緊急脱出艇で教授と貨物とともに送電基地にたどり着いたマキタはダムキナ計画という謎の計画に巻き込まれていきます。 作者の堀晃はもともと繊維メーカーに勤めており、科学への造詣が深いことでも有名な作家で、この物語でも科学的なディテールを楽しめます。それと同時に太陽系から3光日離れた場所での連続不審死という究極のクローズドサークルなミステリの趣もあります。 ダムキナ計画の謎、マキタが運ぶことになっていた貨物、送電基地で相次ぐ不審死、そしてバビロニアウェーブとはそもそも何なのか、SF的、ミステリ的な謎が幾重にも提示されしっかりと解決されていく様を味わえる作品はそう多くないでしょう。 バビロニア・ウェーブ - 堀晃|東京創元社
昔から読むつもりで読んでなかった本が新訳版になって本屋で売られていたので今回は思わず買って読んだ「寄港地のない船」を紹介したいと思います。 以前この作者の書いた地球の長い午後を紹介しましたが、今回紹介する寄港地のない船はこの作者の初めて発表した長編です。 舞台はかつて建造された世代間宇宙船。しかしそのことは遥か昔に忘れ去られ、元住人たちは異常発達した植物に囲まれた居住区で原始的な生活を送っています。そんな中ある部族で狩人をしているロイは部族の司祭、マラッパーに誘われ未知の部族「前部人」がいるとされる船の前部を目指す旅に誘われます。 マラッパー達一行は変わり映えのしない植物に覆いつくされた世界を進んでいくうち、船の本来の主であると言われる巨人と出会い、さらに旅を進めるうちについに前部人たちの領域に到達します。ロイ達に比べればまともな生活を送る前部人ですが、この世界が船であることは知っていてもなぜ船が今の状態になったのか、船がどこへ向かっているのかは謎のままです。しかしロイ達との接触を皮切りに次第に状況は変化していき、やがて船の仕組みや過去の悲劇について、そして船を待ち受ける運命を知ることになります。 世代間宇宙船であることが忘れ去られた時代に旅をしてその事実を発見する話は結構ある気がするのですが、具体的な作品名を上げられないのでこの作品以外に知っている人が居たら教えてほしいです。「宇宙の孤児」は今後読む予定です。 宇宙船であることを忘れ去られた世界で読者は理解できるけれど登場人物たちが理解できていない世界の描写や本来とは違う用途に使われる機械など自分好みのシーンが満載でとてもよかったのと、中盤から一気になぜ宇宙船であることが忘れ去られたのか、そしてこれから先船はどうなるのか、についてどんでん返しが繰り返され、テンポよく物語が進んでいくので60年近く前の作品ですがとても読みやすいです。
今回は漫画「なつのロケット」を紹介したいと思います。 この漫画の作者は「まんがサイエンス」シリーズの作者でインターステラテクノロジーズにも協力している漫画家あさりよしとおです。MOMOに描いてあるキャラクターの絵を描いている人ですね。 「まんがサイエンス」シリーズは小学生のころ図書館に置いてあってよく読んでいた思い出深いシリーズなんですが皆さん知ってますかね? それはともかく、「なつのロケット」は小学生5人がロケット打ち上げを目指すひと夏の物語です。 インターステラテクノロジーズの前身、なつのロケット団の名前はここからとられており、主人公たちが作るロケットは3メートルで200㎏、3段式になっている、実現可能な最小のロケットとして宇宙期のエンジニアである野田篤史氏が導いたものです。 主人公たちが小学生なのは、自分たちがロケットを作っているのは子供のころの夢を今になって実現しているのであり、フィクションの中なら子供のうちに実現させてしまいたいと思ったからだとインタビューで答えている通り、純粋な夢にあふれた作品になっています。 ロケット開発の段階も作品発表後本当にロケット開発に乗り出せていることからもわかるとおり、設計から燃焼実験をして実機を作っていくなどちゃんと描写されています。 CREATEの皆さんなら普通の人以上に共感し、感動できる作品だと思います。 1巻で完結するとても読みやすい漫画なのでぜひどうぞ。
この前紹介した「時間封鎖」の続編、「無限記憶」を読んだので今回はそれを紹介したいと思います。 物語は前作「時間封鎖」から数十年後が舞台です。時間封鎖の最後では地球を覆う時間封鎖は解除され、その代わりにインド洋に未知の世界とつながる巨大なアーチが出現します。アーチの向こう側には人類が呼吸可能なように調整された惑星が存在していました。 今作ではこの新世界で育てられている不思議な少年アイザック、子供のころ失踪した父の謎を追うリーサ、彼女の元夫ブライアンを主な登場人物として物語は進んでいきます。 前作で時間封鎖を行ったとされる存在、「仮定体」が長年をかけて人類の居住に適するよう改造したとされる新世界では突如不可思議な灰が降り注ぐ現象が発生します。そんな中アイザックは灰の中から何かの声のようなものを聞き取ります。失踪した父の謎を追うリーサはその過程でテラフォーミングされた火星由来の技術である第四期処置(寿命を数十年延ばし、性格を改変する)を受けた人々と接触していきます。一応彼女の元夫ブライアンは地球では違法とされる第四期処置などの遺伝子改造を取り締まる政府機関の職員で結婚していたころ彼女の頼みで第四期の人々を探したりしていましたが、彼もまた違法な遺伝子改造を受けたと思われるアイザックや彼を育てている第四期達を追跡することになります。 時間封鎖の話は1巻で終わってしまうので今回は純粋な冒険小説、といった趣になり、前作とはそこそこ雰囲気が違います。それでも謎の存在仮定体に対し各自がそれぞれの思想をもとに正体を推測してみたり、着実に真実に近づいている感じはします。 そのうち最終巻を読んだらまた紹介します。
なんかそういう気分なので今日は漫画の紹介をします。 今回紹介するのはSF漫画、「宙へ参る」です。 脳以外何でも交換できる時代、脳の病気で死んだ夫の葬式を上げた鵯ソラは夫の遺骨を義母のいる地球へと持っていくためスペースコロニーから地球への旅行を始めます。しかし彼女のプログラミング能力はなぜか異常に高く、最高度のセキュリティの宇宙旅客船やスペースコロニーの管制に侵入できてしまいます。そして彼女の旅の途中で周りでは様々な人の思惑が入り乱れ始めます。 ここまで書くとサスペンスやアクション漫画なのかと思われるかもしれませんが、基本はスペースコロニーがいくつもあるほど宇宙技術が発達した時代での旅行物語です。彼女の周りで暗躍する人々も知的好奇心で行動しているため(公安もでてきますが)、今のところ本格的な戦闘シーンなどはありません。まだ連載途中の作品ですので今後どうなるのかはわかりませんが、とある秘密を抱えながらも飄々と旅を続ける、独特で癖になる雰囲気を持った作品です。 またあちこちで挟まれる旅の一コマを描いたほとんど一話完結の話も、それぞれが未来世界に生きる人々や人でない存在たちの思いを絶妙に切り取っていて、不思議な味わいがあります。 現在単行本1巻が発売されており、連載しているものは以下のリンクから見れます。残念なことに更新が遅く数か月に1話読めればありがたいのですが、皆さんもぜひ気長に待ってみてください。 トーチweb 宙に参る <https://www.amazon.co.jp/dp/B084QJGSVH/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1>www.amazon.co.jp
今回はSFならではの変わった世界を探検する一作、「太陽の中の太陽」を紹介したいと思います。 物語の舞台はヴェガ星系、外縁部の軌道上にはかつて設置された「ヴァーガ」と呼ばれる地球サイズの気球のような構造物がありました。 構造物の中では数々の人工太陽が輝き、その光の届く範囲に国が作られます。 この世界の最大の特徴は、なんといっても気球の中であるため空気があり、無重量状態である所。そんな世界で暮らすため人々は独特な生活様式を持っています。 例えばこの世界の町は木材で作られた巨大なリングであり、これを回転させることで疑似的な重力を生み出しています。ほかにもアルコール燃焼式のジェットエンジンのようなもので空を飛ぶスクーターや、そもそも足にひれをつけて飛び出すだけでも空を飛べるなど、この世界ではできない様々なアクションがみられるのも面白いです。 物語の主人公はかつて人工太陽を作ろうとし、宗主国に町ごと破壊された国エアリーの生き残りの青年。彼は復讐のために国の首都にやってきますが、数奇な出来事の果てに軍艦に乗り込みヴァーガの各地を巡る旅に出ることになります。 彼の旅の過程で気球世界の縁、巨大な水滴の中の町、そして人工太陽の部品を生み出している気球世界の中心など、特徴的な場所をめぐることができとても楽しいです。 以前紹介したインテグラル・ツリーのように無重力世界というのはとても面白く映像映えすると思うのでアニメでも映画でもいいのでどこか作ってくれないかと思っているのですがなかなか出ませんね… この小説は三部作の第一部なのですが残念ながら二部以降が翻訳されていません。出版が2008年で電子化もされていないので翻訳は絶望的なのですが、この一冊だけでも完結しており十分楽しめます。 旅に出るのが難しいご時世ですがぜひこの奇妙で楽しい世界を主人公とともに旅してみてはいかがでしょうか。
今回紹介するのはJ・P・ホーガンのSF小説、「星を継ぐ者」です。 宇宙を舞台としたSFの中ではかなり有名な一作で、日本で漫画化もされています。 SF的なありえない謎、それを確かな知識と推論を駆使して鮮やかに解いていき途方もない真実にたどり着く、科学とフィクションを組み合わせるSFの面白さを体現したような作品ですのでぜひ一度読んでみてください。 物語は月面探査員が深紅の宇宙服を着た謎の人物の遺体を発見するところから始まります。早速各国政府へ問い合わせますが、月面で行方不明になったものは誰もいません。そして地球へと運ばれた遺体はC14法年代測定によって5万年前の遺体であると判明します。 遺体はチャーリー、彼の種族はルナリアンと名付けられ、彼の正体を知るべく世界中の科学者が召集されることになります。 チャーリーの正体という一つの謎はやがて人類の出自、太陽系の過去という壮大な謎へとつながってゆきます。 この物語の面白さは月面で見つかった5万年前の遺体という壮大な謎を一歩一歩確実に解いていくところでしょう。 まず彼の所持品の検査から始まり、彼の持っていた手帳の解読、遺体の検査、彼のそばから見つかった携行食糧の原料である魚の分析など、あらゆる手段を駆使し、様々な分野の専門家が協力して謎を解いていく様は見ていてとても気分が良いです。そしてそれらの謎が示す事実がそれぞれ矛盾し、最終的にすべてが解決する一つのストーリーが描かれていく様は見事というほかありません。 続編が2冊(死後に刊行された上下巻の続編がさらに一つ)あるのですが、タイトルの時点で若干ネタバレになってしまうのでここでいうのは控えます。 そんなわけでSF的ミステリ不朽の名作、ぜひ一度未読の方は読んでみてください。 星を継ぐもの
さて、時間が空いてしまいましたが二連続でホーガンを紹介したので今回もホーガンの代表作の一つ、「造物主の掟」(ライフメーカーの掟)を紹介しようと思います。 はるか昔、異星人によって作られた採掘用の無人宇宙船は土星のタイタンに着陸し、採掘作業用のロボットを製造し始めます。 しかし宇宙船のプログラムは航行中に浴びた超新星のフレアの影響で狂っており、ロボットは採掘した鉱石を母星に送ることなく自己増殖を繰り返し、やがてその中で淘汰と進化が始まります。 一方21世紀の地球ではタイタンで観測された生命活動の調査のためアメリカとヨーロッパ合同の大規模調査団が派遣されることになりました。 そしてタイタンに到着した人類は進化の果て知性を手に入れた機械生命体、「タロイド」と遭遇することになります。 さて、この小説も発表は1983年と40年近く前の作品ですが、今読んでも十分に面白いのはほかの作品と共通です。 この物語で面白いのは主人公が科学者ではなく自称新霊術師であるザンベンドルフである、という点でしょうか。 この世界においてアメリカは愚民政策を進めており、ザンベンドルフは科学者の学会内部にも多くの支持者を持つほどです。 ザンベンドルフは火星でのESP実験を行うという体で熱角推進の巨大宇宙船オリオン号に乗り込みますが、やがて船の行き先が火星ではなくタイタンであることに気が付きます。 やがてタロイドと遭遇したザンベンドルフらは封建的な社会体制とそれを利用しようとするアメリカ政府との間に立ち、一世一代のペテンを仕掛けることになっていきます。 稀代のペテン師が大博打を打つスリラーとしても、緻密な設定で描かれるファーストコンタクトSFとしても楽しめる作品になっていますのでぜひ読んでみてください。[https://
今回は宇宙物の趣向を変えてノンフィクション、「スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法」を紹介しようと思います。 今年の5月に発売されたブルーバックスで、現在研究中の宇宙で暮らすための技術が著者の研究を含め紹介されています。 第1章はこれまでの宇宙開発と現在計画されている宇宙開発計画を概観、その実現のために求められる技術を簡単に解説します。 第2章ではこれまでわかっている宇宙に滞在することが人体へ及ぼす影響について解説します。無重力化での血液循環はどうなるのか、なぜ筋肉は委縮するのか、宇宙船という閉鎖環境に閉じ込められた際の精神への影響など興味深いトピックスが並んでいます。 そのご、宇宙で暮らすためのウェアラブルデバイスや宇宙農業の研究、電力源や水・空気の再生技術ついてそれぞれ各1章づつ解説していきます。 当然各技術の具体的な記述は限定的なものになってしまいますが、人類が宇宙に進出する際の問題点と現在考えられている解決策がおおよそ網羅されており、宇宙技術について興味を持った人が最初に読む入門書としてはかなり良いものになっているのではないでしょうか。 最新の宇宙技術に興味があるという方、まずこの本を読んでみてはいかがでしょうか。
今回は未完の歴史改変宇宙開発SF,「遥かなる星」全三巻を紹介しようと思います。 作者である佐藤大輔は仮想戦記作家として有名な人物ですが、シリーズものを途中まで書いて投げ出す悪癖で知られており、残念ながら本シリーズも3巻までで中断しています。また2017年に本人が亡くなっているため、永遠に中断したまま、ということになります。 とはいえ3巻まででも十分に楽しめます(まあいいところで終わるので続きが一生気になりますけどね) 「遥かなる星」はキューバ危機から第3次大戦がはじまり、アメリカ合衆国が滅亡した世界で日本が宇宙開発を目指す物語です。1巻が第3次大戦による滅亡までの物語、2巻3巻が奇跡的に核兵器から逃れた日本がいずれ起きるであろう第4次世界大戦から逃れるため宇宙を目指す物語となります。 一般に宇宙開発と主な動機として描かれるのは開拓や新たな世界へのロマンといったポジティブな感情ですが、この物語で宇宙開発を推し進めるのは今度こそ世界すべてが滅ぶであろう第4次世界大戦から逃れるため、宇宙に住処を作る、という極めてネガティブな理由です。 しかしそんな世界であっても人々はロケットや宇宙に自らの夢を乗せ、そして現実とのずれに葛藤しながら開発を進めていきます。 もともと極めていリアルな仮想戦記を書くことで知られている作家だけあり、第3次大戦に至る過程、第3次大戦後の世界についても緻密に描かれ、物語の説得力を増しています。 宇宙開発のめどが立ち、役者もそろったところで終わってしまう本シリーズですが、異色の宇宙開発SFとして十二分に楽しめるものとなっています。 遙かなる星 1──パックス・アメリカーナ-ハヤカワ・オンライン
今回は「楽園追放」の公式続編小説「楽園残響」を紹介します。本編の映画を見た後に是非読んでみてください。 とはいえこれは続編であり、物語のあらすじを語った時点で映画のネタバレになってしまいます。 そんなわけでネタバレをさけつつ興味を持ってもらうためにこの小説は有名SFからのパロディを多分に含んでいるので、元ネタのSFをざっくり紹介したいと思います。僕がわかって記憶している分しか書いていないので、多分他にもいろいろあると思います。 まずは巡洋艦サラマンダー、谷甲州という作家の有名SFシリーズ、「航空宇宙軍史」に登場する宇宙巡洋艦です。地球を主体とした航空宇宙軍と木星、土星が主力となる外惑星連合軍の2度にわたる衝突を描いたシリーズで、巡洋艦サラマンダーは技術力、国力において航空宇宙軍に劣る外惑星連合軍が唯一就役させることのできた正規の軍艦で、外惑星連合軍の命運を託されます。航空宇宙軍史は日本のハードSFの中でも極めて評価の高いシリーズで、ぜひ紹介したいのですが新装版を買い集めるのがなかなか進まないので紹介できていません。 次に出てくるのが「キモノ」と呼ばれる強化外骨格で、これは「機龍警察」というロボットものと警察ものをまぜたSFシリーズに登場します。近未来、戦争用に発明された強化外骨格がテロ組織にも流出、既存の警察の装備では太刀打ちできなくなった警察は強化外骨格犯罪専門の部署を設立します。この強化外骨格の警察での隠語が「キモノ」になっています。テレビで警察ドラマを見たことのある人なら警護の対象をマルタイとかと呼んでいるシーンを見たことがあるかもしれませんがあんな感じです。僕も第一作しか読めていませんが今年に入ってからも新作が出版されている人気シリーズですのでぜひ読んでみてください。 後はYou have control]というセリフができますが、本来は飛行機でパイロットが操縦を交代する際に言う言葉ですがセリフの状況を考えると「戦闘妖精 雪風」のオマージュだと思われます。これも日本SFの傑作と言われる作品で、ジャムと呼ばれる謎の生命と戦闘を繰り広げる戦闘機パイロットと彼の愛機搭載戦闘機雪風を描いた作品です。アニメ化もされていますがこちらは見てないんですよね。このセリフが出てくるのは「戦闘妖精雪風」の続編、「アンブロークンアロー」です。現在最新作がSFマガジンで連載中だったはずで、僕は単行本が出るのを待っています。第1作が出たのは40年近く前ですが、機械と人間の関係性を描くシリーズとして今なお最高峰の出来栄えを誇ります。 さて、今思い出せる分はこのくらいですかね。どのシリーズも楽園追放本編も、楽園残響もとても面白いSFですので興味を持ったものから読んでみてもらえると嬉しいです。 またこれは僕も読んでいないのですが、映画のノベライズ「楽園追放」、前日譚「楽園追放 mission0」も出版されていますので興味のある方はぜひこちらもどうぞ。 [楽園追放2.0 楽園残響──―Godspeed You―-ハヤカワ・オンライン
お久しぶりです。 今回は「火星の人」(オデッセイというタイトルで映画化)、「アルテミス」の著者アンディ・ウィアーの最新作、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を紹介しようと思います。 主人公はある日、すべての記憶を失ってベッドの上で目を覚まします。そばには自分の世話をするロボットアーム。名前すら思い出せない彼は昏睡から目覚めたばかりでいうことを聞かない体のリハビリをしながら少しずつ記憶を取り戻していきます。 さて、この話は主人公が次第に記憶を取り戻していくことが面白さに直結していくので、これ以上の紹介をするとネタバレになってしまうのですが、しいて言うなら題名にある「兵ル・メアリー」とはアメリカンフットボールで試合の終盤、負けているチームが一か八かの逆転を行うプレイのことを指すそうです(初めて知った)。「一か八かの賭け」という名を持ったプロジェクトとは何なのか、いったい何に負けようとしているのか、何をすれば一発逆転ができるのか、それを主人公グレース(まあ名前くらい言ってもいいでしょう)とともに解き明かしていくのが本作の魅力です。 オデッセイとして映画化された火星の人では、主人公に襲い掛かる苦難を科学知識を駆使して解決していくことを物語としてとても面白く語っていました。今回はさらに謎解きが加わり、観察し、仮説を立て、実験により証明する、という科学の面白さを面白い物語としてしっかりまとめ上げています。 上下巻に分かれてはいますがユーモアがあってそこまで厚くもないので読みやすく、こちらでプロローグを読むことができますので、年末の読書にいかがでしょうか。 ネタバレ厳禁!『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー【試し読み】|Hayakawa Books & Magazines(β)