巨星
「巨星」の感想
ファーストコンタクト、近未来SFなど全11篇をそろえたピーター・ワッツの短編集。
巨星 ピーター・ワッツ傑作選 - ピーター・ワッツ/嶋田洋一 訳|東京創元社
特に好みの作品を紹介していけばまず「遊星からの物体Xの回想」。 実は原点の映画を見たことはないのだが、集合精神を持った異星生物の視点から人類を描くというのが面白い。先に映画があったからこそできる手法だとも思うが異質なものから人類を見るというのはSFの醍醐味だと思う。
「神の目」は人間の深層心理、表に出さない衝動を読み取り、一時的に無効化できる装置の普及した社会を描いた一作。明確に他者への危害を望む衝動を抑圧しながら生きるとき、それを消し去る手段を得たなら何を選ぶべきなのか。主題はずいぶん異なるが、理解はできる個別の技術と選択が倫理的なジレンマを突き付ける様はイーガンの短編「繭」を思い出した。
打って変わって「乱雲」は雲が知性をもって人類が地上の覇者ではなくなった世界でかろうじて地上生活をする親子の話。知性を持った雲が自在に嵐や雷を操り人類社会や生態系を破壊していく様は壮麗な恐ろしさがある。過去の世界に後悔を抱えた父と新しい世界を当然として順応していく娘の対比で異世界を切り取った一作。
最後の3編、「ホットショット」「巨星」「島」は「6600万年の革命」と同じ世界・登場人物の物語。時系列としては「ホットショット」→「6600万年の革命」→「巨星」→「島」の順番らしい。 「6600万年の革命」はワームホール構築船の管理AIに対する反乱を描いた作品だが、「ホットショット」は自由意志、「巨星」「島」はファーストコンタクトを扱っている。
「ホットショット」はワームホール構築船の出発前、サンデイは乗務員になる前最後の休暇で地球では存在を理論的に否定された「自由意志」を体感するツアーに参加する。太陽の磁場の中を通過することで決定論的にふるまう脳をかき乱し、「自由意志」に近い何かを獲得する旅だ。たとえ決定論から逃れられないのだとしても、そこに意味と納得を与える必要性と衝動と希望を見出す。
「巨星」では「6600万年の革命」の後、AI側の安全装置を担う人間「ぼく」とかつて反乱者だったハキムが目を覚ます。その時ワームホール構築船「エリフォラ」は恒星の中に突入するルートを進んでいた。「6600万年の革命」の直接的な続編といえる作品で、ファーストコンタクト要素は控えめ。それでもスペクタクルなシーンとアイデア、緊迫したドラマの両立が見事。 「島」では「ホットショット」「6600万年の革命」で登場したサンデイが主人公。恒星全体を覆う生きたダイソンスフィアとでもいうべき存在とのファーストコンタクトを果たす。ワームホール構築の過程でその異種知性を死なせることになると考えたサンデイはどうにか食い止めようとするが・・・ 人間の知性、機械の知性、異種の知性と様々な知性のありようと対立を描いてきたこの作品群の最後となるのにふさわしい出来栄え。
様々な面から知性や意識のありように迫る傑作選の名に恥じない短編集だった。