巨星
「巨星」の感想
13件
「巨星」の感想
初回は野尻抱介の「太陽の簒奪者」です。 006年、突如観測されるようになった水星吹き上げられる鉱物資源はやがて太陽を取り巻くリングを作り始め、その影響で地球への日光は遮られ、人類は滅亡の瀬戸際に立たされます。危機を打開するためにたった1隻建造された宇宙船に乗りリングに向かった主人公、白石亜紀の物語が展開されます。 ファーストコンタクトや地球侵略を扱ったSFですが、異星人たちが人間に興味を示すことはなく、そもそも地球を侵略しているつもりさえありません。彼らの目的とはなんなのか、という問いはやがて知性とは何なのか、といった問いへ発展していきます。 また作中の宇宙船の機動などは可能な限り現実に即して書かれているのも見どころです(あとがきで一部どうしようもなかったので現実では無理な動きを書いたと言っていますが僕はわからなかったです)。
今回は「重力への挑戦」を紹介したいと思います。 物語の舞台は地球の700倍の重力を持つ惑星メスクリン。ただし、この惑星は惑星自身が変形するほど高速で自転しており、極地では700G ですが赤道付近では3G程度にまで体感重力は減少します。 そんな惑星の極地に人類が送り込んだ探査機が座礁しますが、700Gもの重力に支配された極地に向かうことはできません。そこでこの惑星に住む尺取虫のような形の知的生物、メスクリン人との間に交渉が成立します。 この物語ではメスクリン人たちが赤道から極地へロケット回収に挑んでいきます。 緯度によって重力が変わる世界を舞台に奇妙な光景を巡りながら次第に強くなっていく重力と戦う冒険物語をぜひ読んでみてください。 重力への挑戦 - ハル・クレメント/井上勇 訳|東京創元社
今回は林譲治のミリタリーSFシリーズ、「星系出雲の兵站」を紹介したいと思います。 舞台は地球からの播種船によって植民されたと伝わる出雲星系と、その後に植民された壱岐、八島、周防、瑞穂の計5つの星系からなる五星系文明です。地球人類が異星人の脅威に曝され植民を行ったと伝わっており、異星人の侵略への強迫観念をもっていますが、植民から数千年がたった今、本当に異星人がいるのか懐疑的になっています。 そんな中、壱岐星系で異星人の設置した人工衛星が発見されたところから物語は始まります。 そして人類は異星人ガイナスと遭遇し、ついに異星人の侵略が現実のものとなります。なし崩し的に戦端は開かれ、壱岐星系外縁を舞台としてガイナスとの戦争が始まるわけですが、人類も一枚岩ではありません。戦場となる壱岐星系は辺境ながらも開発独裁体制を敷くことで着々と力を高めていますが、五星系文明の起源であり最大の戦力を持つ出雲星系の介入は着々と軋轢を生みだしていきます。 敵であるガイナスについても、意思の疎通はできず、正体が不明なまま戦争に突入することになり、翻弄されていきます。 唯一で出てくる超光速航法以外は現在の物理法則に則て描かれており、また巨大な組織内部のや組織同士の争いも描かれますが、それぞれの信念や正義がしっかりと描かれるので醜い覇権争いにはならないのも魅力です。 現在第一部が全4巻、第2部となる星系出雲の兵站―遠征―が第3巻まで発売されています。 /26に最新刊星系出雲の兵站―遠征―4巻が発売されます。僕はAmazonで予約したので楽しみに待っているところです。皆さんも新刊発売のこの期に読み始めてみてはいかがでしょうか。 星系出雲の兵站 1-ハヤカワ・オンライン
多分皆さんは三体問題を聞いたことがあると思います。安定解の存在しない問題として有名ですが、この小説、三体に登場するのは3連星系の恒星系に生まれた異星人三体人による地球侵略計画を描いた三部作の第一部になります。 文革時代の中国、科学者であった父親を殺された娘から物語は始まります。絶望した彼女は中国の山奥に建造されたパラボラアンテナを備える軍事基地でのプロジェクトにスカウトされます。 そこで進められる計画に携わる彼女は得た知識からある計画を実行します。 一方近未来のナノテクノロジー素材の研究者汪森は招待された会議で世界的な科学者が次々自殺しているという事実を聞かされ、その背後に見える「科学フロンティア」なる組織への潜入を要請されます。しかし彼が趣味の写真を撮ると必ず謎のカウントダウンがどこかに写りこみ、やがて彼の視界にもカウントダウンが映るようになるゴーストカウントダウンが始まります。 原因のつかめない現象によって追い込まれていく汪森ですが、3つの太陽を持つ惑星を舞台にしたVRゲーム、「三体」の情報を手に入れます。そのゲームをプレイしていくうちにやがては三体人たちの思惑や彼らの計画を知ることになります。 中国発のSFとして中国やアメリカで大ヒットしてから満を持して日本に上陸した本作、SFとしての完成度はもちろん高く、なおかつエンターテイメイント性も高いため非常に読みやすくできており、あまりSFを読まない人でもその醍醐味をしっかりと味わえるおすすめの作品です。 三部作の第二部「黒暗森林」は明日(のつもりで書いていましたが今日ですね)発売です。多分本屋に行けばまとめて売られていると思うので是非読んでみてください。 三体-ハヤカワ・オンライン 三体Ⅱ 黒暗森林 上-ハヤカワ・オンライン 追記 この紹介を書いたのは2020年6月ですが、現在黒暗森林、死神永生が発売され完結しています。
今回は植物型の知的生命体とのファーストコンタクトを何世代にもわたって描いた連作短編集、「セミオーシス」を紹介したいと思います。 舞台は遥か彼方の惑星、どうやら人類は危機に瀕したか、一部の人間が地球外を目指したのか、詳しくは語られませんが人間の一団が植民可能なとある惑星に降り立ちます。様々な生物がすむ惑星で苦労しつつもどうにか定住を始めた彼らでしたが、そこで古代にあったと思われる文明の遺跡を発見します。また、この世界に繁殖している竹のような植物が知性を持っていることにも気づくのでした。 この物語の特色は、植民した人類とこの惑星の知的生命である竹との交流を7世代、100年以上にわたって描くことです。地球に対しそれぞれの思いや思想を持つ第1世代と、地球を知らずこの星を故郷と思うそれ以降の世代では価値観も異なり、人口の安定しない過渡期の世代では孤独な一生を送らざるを得ない人物なども現れます。そんな彼らがそれぞれの思惑を抱えながらこの星の先住存在である竹と否応なしに共存を迫られていきます。 この植物知的生命体ですが、毒物を分泌したり動物を家畜化して使役しているあまり友好的ではない存在です。毒物だけならまだよいですが、麻薬のような物質を蓄えた実を作ることで人間を虜にするなどの手段を駆使し、交流が進めば頭脳を活性化する物質や感情を落ち着ける物質などを含んだ実を実らせるなど狡猾になっていきます。また植物群全体として知性を持つため不死である点も見逃せません。人間のことも基本的には使役動物とみなしていますが、長年をかけてこちらの条件を飲ませ、思考を変えさせていくことになります。 お互いに利用しあい、腹の内を探りながら信頼関係を気付いていき、一方統一された存在ではない人間は自らの内部でも分裂を起こしたりします。そんな異星で生き残ろうと足搔く人類7世代の物語是非読んでみてください。 セミオーシス-ハヤカワ・オンライン
この前紹介した「三体」の続編、「黒暗森林」をやっと読んだので今回はこれを紹介しようと思います。 前作「三体」で三体世界からの侵略に曝されることが分かった地球。三体世界からの侵略艦隊は4光年を400年かけて進んできます。しかし先んじて三体人が送り込んできた陽子に回路を組み込んだコンピュータ「智子」によって人類の行動はすべて筒抜けであり、また量子領域での実験結果を全て封じられ基礎科学の停滞を余儀なくされます。 黒暗森林上巻ではこの智子の監視に対抗するために始まった面壁者計画が描かれます。唯一智子が監視できないのは人間の思考ですが、複数人が集まって協議してしまうと情報が漏れてしまいます。そこで面壁者計画では全世界で4人に強大な権限を与え、4人の頭の中だけに作戦を封印することで智子を欺こうとします。世界的に有名な戦略家や科学者が選ばれる中、唯一無名であった羅輯は、なぜ自分が選ばれたのかを考えるうちにかつて三体危機を引き起こした人物である葉文潔に宇宙社会学の公理というものを聞かされたことを思い出します。 下巻では200年が経過した未来において、人口冬眠から目を覚ました羅輯達の物語が描かれます。目を覚ました彼らが見たのは発展を遂げ光速の15%近い速力を出せる宇宙戦艦を配備した人類たちでした。彼らは三体世界から先に送り込まれた探査機を回収するミッションを開始する直前でした。相変わらず基礎科学は封じられているものの宇宙艦隊を配備した人類は回収ミッションは極めて簡単なものだと考えていました… これまでのSF紹介ではやたら凝ったものを紹介してきた(僕の趣味なので後悔も反省もしてませんしこれからもそうしますが)のですが、これはアーサーCクラークなどを思い出す、きわめて王道なSFで、アイデアもボリューム十分なので誰にでもお勧めできる作品です。 三体Ⅱ 黒暗森林 上-ハヤカワ・オンライン
今回は前回名前だけ出てきたグレッグ・イーガンのSF,「白熱光」を紹介したいと思います。 イーガンは数学の博士号を持っている作家で数学や物理学の知識を駆使した独自設定の世界を展開することで有名です。この白熱光も例にもれず高重力の星を回る星での物理現象の実験などわかりにくいシーンがいろいろ出てきますが、純粋に物語としても面白いです。 前回も紹介したように、白熱光の舞台は数多の銀河種族たちが築いた巨大ネットワーク、融合世界(アマルガム)が舞台。そこに住む主人公たちはある日いつもは銀河中に散らばっているけれど数千年に一度一か所に集まるという種族の人物に話しかけられます。その人から融合世界からの一切の干渉を拒んでいた孤高世界から孤高世界にはまだカタログに載っていないDNA基質の生物が存在するというメッセージが送信されたと聞き、主人公ラケシュたちは孤高世界を目指します。 一方孤高世界に住む種族のロスという女性はある日ザックという物理法則を研究する奇妙な老人に出会います。 奇数章ではラケシュたちの孤高世界の謎を解き明かす冒険が、偶数章ではロスたちの物理法則を探求する物語が描かれます。 ロスたちの発見は最初は古典物理学から始まるのですが最後には相対性理論まで行くのでかなり難解なものになります。それでも小惑星内部に住んでいるので天体観測ができない中、様々な実験を通して自分たちが巨大な重力を持つ星の周りを公転していることを発見していく様子を見るのは興味深いです。 ラケシュたちもまた孤高世界で巨大望遠鏡を建造し一つの小惑星を発見します。そして孤高世界の住人との接触していきます。 先に述べたとおり、イーガンは科学的な正確さに徹底的にこだわる作家なので実験の詳細などについてもとても細かく描写しますが、全体的にはミステリー調で展開するラケシュたちのパート、科学するとはどういうことかを突き詰めていき、発見する楽しさや興奮を余すとこなく描いていくロスたちのパート、どちらも十分に楽しめます。 何を言っているのかわからなくなっても解説のサイトがあるので安心です。 -01-01 いろいろ言いましたが、イーガンの話は基本的に知性を持った生物の目指す幸福とは何かや新しいものを発見する喜びなどを緻密に描いてくれる作家なので一度読んでみてほしいと思います。 白熱光-ハヤカワ・オンライン
今回は雰囲気を変えて「ウェイプスウィード ヨルの惑星」を紹介したいと思います。 もともとは年間日本SF傑作選という毎年刊行される短編集(最近辞めてしまったみたいですが)に収録されていたウェイプスウィードという短編を連作短編の形で長編化したものです。 遠未来の太陽系、人類は地球を離れ各惑星や小惑星に居住していました。地球は環境保護のために立ち入りが制限され、地球を離れなかったわずかな部族が生活していました。 主人公はそんな惑星に住む巫女のヨル、木星出身の科学者ケンガセンの二人です。環境激変の結果大部分が海に沈んだ地球で最大の生物となったのがエルグレナと呼ばれるミドリムシの変異体であり、様々な形で惑星全体を覆っています。ケンガセンたちの研究グループはこの生物の研究のため地球に降りる許可を得て降下艇で着陸を試みますが、原因不明の事故により破壊され、ケンガセン以外は死亡してしまい、墜落地点から最も近いヨルの島に救援要請がなされます。 一方地球に住むヨルの部族で科学を学ぶことができるのは巫女のヨルだけでした。好奇心旺盛ながら科学を知らない村人たちに相手にされず飽き飽きしていたヨルは科学者のケンガセンと意気投合していきます。 そして彼らの調査目標である菌類とエルグレナの共生体が作り上げる巨大な海中の花、ウェイプスウィードに向かうことになりますが、そこでの発見は次第に人類に大きな影響を及ぼしていくことになります。 人類が新たな知性体と出会う、いわゆるファーストコンタクトものなのですが、ファーストコンタクトに至るまでの過程がメインで描かれるのが特徴的な一冊です。 またキャラクターもたっていて読みやすく、SF的な設定もしっかり練られているので夏休みに少しSFを読んでみようかなと思った人にもお勧めしたい一冊です。 ウェイプスウィード──ヨルの惑星-ハヤカワ・オンライン
あけましておめでとうございます。 今回は以前紹介した「星系出雲の兵站」の著者、林譲治の新シリーズ、「大日本帝国の銀河」を紹介しようと思います。 始まりは昭和15年6月、秋津俊雄は電波兵器の研究を名目に和歌山県で電波天文台の建設に取り組んでいました。その背景には以前の日食の際にオリオン座方向から波長21㎝の指向性の高い電波が検出されたことがありました。そんな中、秋津は中学時代の同級生で海軍に所属する武園に連れられ、自身は火星から来たと主張する火星太郎なる謎の人物と彼が乗ってきた未知の大型四発機を見せられます。 それからしばらくしてに交戦状態にあるドイツとイギリスでも似たような大型四発機が出現、そして射殺された四発機の乗組員を解剖した結果、肉体の内部構造が人間とは異なることも見いだされます。 林譲治はもともと架空戦記でデビューし、第2次世界大戦での日本軍の兵站についての本も出版しているなど、第2次大戦には造詣の深い人物です。今回始まった新シリーズは元から得意である架空戦記に星系出雲の兵站でも描いたたようなファーストコンタクトをミックスした得意分野を集めたようなSFなので今後の展開に期待が持てます。 第1巻の時点で異星人について様々な謎が提示され、また歴史も彼らの干渉によって異なる道を歩み始めます。正直僕はこの時期の歴史についてはあまり詳しくないのですが、ミリタリーや歴史好きな人であれば僕よりもさらに楽しめると思います。 <https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08R9X5ZLT/ref=dbs_a_def_rwt_hsch_vapi_tkin_p1_i0>www.amazon.co.jp
今回紹介するのは「大日本帝国の銀河」です。 前回一月に第一巻を紹介しましたが、第二巻が発売されました。今後も三ヶ月ペースで刊行される予定です。 さて、一巻二巻まとめてあらすじを紹介しますと、日中戦争、太平洋戦争の時代を舞台にした歴史改変、ファーストコンタクトもののSF小説です。 第一巻の始まりは満州での日食の観測時、オリオン座の方向から指向性の高い電波が検出されるとこりから始まります。それから何年か経った昭和15年、天文学者の秋津は和歌山に電波兵器の研究という名目で電波天文台を建設していました。 そんな中、秋津の中学時代の同級生で海軍軍人の武園が現れ、彼に火星太郎を名乗る不審な人物と彼の乗ってきた未知の大型四発機を見せます。 そして未知の大型四発機はイギリスとドイツが会敵した海にも出現し、両国の軍艦を瞬く間に撃沈してのけ、混迷の中にある世界情勢の中、地球人や宇宙人の思惑が交錯していきます。 第二巻では異星人の目的が不明なまま、彼らの強大な技術力が次第に明らかになっていきます。人工衛星に始まり、軌道上と大気圏を行き来する往還機など、現代であっても不可能な技術も出現し、地球人はまずその概念を理解する所から始めなければなりません。 一方地球でもドイツ内部ではソ連との開戦を避けるべく一部勢力が動き出し、日本国内でも総力戦に備えた政治体制の確立を目指す人々が現れます。さらに異星人の技術をもとにしたとある発明品が完成することになります。 さて、このシリーズの作者である林譲治は前作星系出雲の兵站でも政治劇とファーストコンタクトを絡めた見事なSFを描きましたが、今作でもその腕は健在で、もともと仮想戦記の作家であることもあり、政治や社会の描写はかなり真に迫っています。日本軍の意思決定や兵站についての研究書も何冊か出版している人物でもあり、作中の大日本帝国の政治システムに関する描写などそこだけでも面白い位です。また星系出雲の兵站ではコミュニケーションの取れない相手との戦争でしたが、今回はコミュニケーションは取れるけれども何処かチグハグで、相手の目的が読めません。地球人は地球人でまず宇宙人という概念の理解から始めなければいけません。 SF映画で宇宙人が攻めてくるとき、いくらでも宇宙にある資源を何故わざわざ地球に取りにくるのか、人間より遥かに使いやすいロボットを作れるのになぜ地球の支配を目論むのか、不思議に思うことも多いですが、このシリーズではそれらの疑問にもしっかりと触れられます(真の彼らの目論みは未だ不明ですが)。 それだけでも十分魅力的な題材ですが、さらに異星人の干渉による歴史の変化、どうしようもない武力の差の前に人類はどうするのか、その前に第二次世界大戦真っ最中の世界はこの脅威の前に団結することはできるのかなど、幾つもの事態が同時進行していくため全く先の読めないストーリーが展開されていきます。 今なら東工大の生協で10%オフで購入できますし、一冊はそこまで分厚くない文庫本です。ハリウッド的な宇宙戦争に飽き飽きしている人、第二次世界大戦や旧日本軍に興味のある人、仮想戦記や歴史改変ものが好きな人など、様々な人が楽しめる魅力に詰まった作品ですのでよろしくお願いします。
今回紹介するのはJ・P・ホーガンのSF小説、「星を継ぐ者」です。 宇宙を舞台としたSFの中ではかなり有名な一作で、日本で漫画化もされています。 SF的なありえない謎、それを確かな知識と推論を駆使して鮮やかに解いていき途方もない真実にたどり着く、科学とフィクションを組み合わせるSFの面白さを体現したような作品ですのでぜひ一度読んでみてください。 物語は月面探査員が深紅の宇宙服を着た謎の人物の遺体を発見するところから始まります。早速各国政府へ問い合わせますが、月面で行方不明になったものは誰もいません。そして地球へと運ばれた遺体はC14法年代測定によって5万年前の遺体であると判明します。 遺体はチャーリー、彼の種族はルナリアンと名付けられ、彼の正体を知るべく世界中の科学者が召集されることになります。 チャーリーの正体という一つの謎はやがて人類の出自、太陽系の過去という壮大な謎へとつながってゆきます。 この物語の面白さは月面で見つかった5万年前の遺体という壮大な謎を一歩一歩確実に解いていくところでしょう。 まず彼の所持品の検査から始まり、彼の持っていた手帳の解読、遺体の検査、彼のそばから見つかった携行食糧の原料である魚の分析など、あらゆる手段を駆使し、様々な分野の専門家が協力して謎を解いていく様は見ていてとても気分が良いです。そしてそれらの謎が示す事実がそれぞれ矛盾し、最終的にすべてが解決する一つのストーリーが描かれていく様は見事というほかありません。 続編が2冊(死後に刊行された上下巻の続編がさらに一つ)あるのですが、タイトルの時点で若干ネタバレになってしまうのでここでいうのは控えます。 そんなわけでSF的ミステリ不朽の名作、ぜひ一度未読の方は読んでみてください。 星を継ぐもの
さて、時間が空いてしまいましたが二連続でホーガンを紹介したので今回もホーガンの代表作の一つ、「造物主の掟」(ライフメーカーの掟)を紹介しようと思います。 はるか昔、異星人によって作られた採掘用の無人宇宙船は土星のタイタンに着陸し、採掘作業用のロボットを製造し始めます。 しかし宇宙船のプログラムは航行中に浴びた超新星のフレアの影響で狂っており、ロボットは採掘した鉱石を母星に送ることなく自己増殖を繰り返し、やがてその中で淘汰と進化が始まります。 一方21世紀の地球ではタイタンで観測された生命活動の調査のためアメリカとヨーロッパ合同の大規模調査団が派遣されることになりました。 そしてタイタンに到着した人類は進化の果て知性を手に入れた機械生命体、「タロイド」と遭遇することになります。 さて、この小説も発表は1983年と40年近く前の作品ですが、今読んでも十分に面白いのはほかの作品と共通です。 この物語で面白いのは主人公が科学者ではなく自称新霊術師であるザンベンドルフである、という点でしょうか。 この世界においてアメリカは愚民政策を進めており、ザンベンドルフは科学者の学会内部にも多くの支持者を持つほどです。 ザンベンドルフは火星でのESP実験を行うという体で熱角推進の巨大宇宙船オリオン号に乗り込みますが、やがて船の行き先が火星ではなくタイタンであることに気が付きます。 やがてタロイドと遭遇したザンベンドルフらは封建的な社会体制とそれを利用しようとするアメリカ政府との間に立ち、一世一代のペテンを仕掛けることになっていきます。 稀代のペテン師が大博打を打つスリラーとしても、緻密な設定で描かれるファーストコンタクトSFとしても楽しめる作品になっていますのでぜひ読んでみてください。[https://