マイボディオンザムーン 感想
矢野 アロウのSF小説、マイボディオンザムーンを読んだ。 月の裏側で発見された頭部のない数十の遺体をめぐる謎解きと世界の混乱を描くSF小説。
以下ネタバレ感想
ホライズン・ゲート 事象の狩人が面白かったので、次回作を楽しみにしていた方。 遥か彼方のブラックホール周辺を扱った前作から大きく変わり、2024年の地球を舞台に、月の裏側で見つかった頭部のない数十の遺体、という星を継ぐものを思わせる冒頭から、混迷した社会情勢と、遺体の発見がもたらす社会の混沌を1000ページを超える分量で描いていく。
現代社会を絡めた描写、SFとしての仕掛け、きっちりと科学的ディテールにこられた遺体の中身の描写など、宇宙SFとしてしっかりと面白い作品だったが、この分量を読んだ後で宇宙生物の正体を次回に期待!という形で締められるとどうしても消化不良感が残る。
そして、すべての登場人物たちがこの謎の遺体に対して、それが人類社会に何をもたらすのか、しか考えていない点がどうにも引っかかる。もちろん、人類に移植可能な宇宙生物が人類社会にどんな影響を与えるのか、という考察は重要だし、現代を舞台にする以上社会の分断や拡大する戦火への影響を無視することはできない。
ただ、総勢10名近い登場人物たちの視点で展開される物語であるのに、それぞれの社会的立場から見てどんな影響があるのか、の話に終始し、彼らが一体どこから来たのか、何を目指したのか、何者なのか、という話をする人物が一切いないというのは、自分には随分と偏狭な世界観のように感じられた。
折角、宇宙を渡れるのは寄生生物だけ、というとても面白い宇宙生物観を生み出したし、あの終わりで続編を書かないことはないと思うので、シリーズ展開に期待していきたい。